ここでの発信が追い付いていませんでしたので、最近の論文発表について紹介しておきます。
Egg Yolk Protein Homologs Identified in Live-Bearing Sharks: Co-Opted in the Lecithotrophy-to-Matrotrophy Shift?
Yuta Ohishi, Shogo Arimura, Koya Shimoyama, Kazuyuki Yamada, Shinya Yamauchi, Taku Horie, Susumu Hyodo, Shigehiro Kuraku
卵黄タンパク質のレパートリの進化的変遷について、とくに卵生・胎生の変化がダイナミックに起きてきた軟骨魚類に注目した研究です。理研の研究室で、大石雄太さん(大学院生としては神戸大院理に所属)が実質全部のデータ生産を行った研究です。ラブカの冷凍試料から、電動器具を使って組織を切り出す作業を、東海大海洋科学博物館のご協力で行い、レアなサンプルからのデータ取得を実現しました。日本語の紹介記事も近々公開します。
雑誌冒頭でも紹介してもらいました。https://doi.org/10.1093/gbe/evad037
また、雑誌の表紙(写真をクリックすると拡大)も飾ることができました。写真は、今回共同で加わっていただいた「ラブカ研究プロジェクト」によるラブカの胎仔で、左にVitellogenin受容体とされるVLDLR遺伝子ファミリーの分子系統樹を添えています。
Whale shark rhodopsin adapted to deep-sea lifestyle by a substitution associated with human disease
Kazuaki Yamaguchi, Mitsumasa Koyanagi , Keiichi Sato, and Shigehiro Kuraku
軟骨魚類・硬骨魚類を通じて体が最大ということで知られ、深海にも潜ることが知られているジンベエザメの視覚を司るロドプシンに注目し、深海で視覚に依存していることの証と思われる、独自の特徴を見出しました。ジンベエザメの視覚を調べるのに、ジンベエザメの生体試料はまったく使用していないのが、研究手法上のミソです。データ取得は、理研の研究員の山口和晃さんが中心として行いました。
ジンベエザメのロドプシンが深い海にまで注ぎ込む青色の光を受け取ることを可能にした、ロドプシンの94番目(と178番目)の残基におけるアミノ酸置換は、自然界のどの生物でも報告されたことがありません。実は、94番目のアミノ酸については、ヒトの夜盲症の原因のひとつとしては知られています。そういった関連性が発見を深める糸口となっており、またロドプシンを含むオプシン類タンパク質の多様性と表現型の予期せぬ関わりに唸らされた部分でした。
日本語の紹介記事(プレスリリース記事へのリンクを含む)はこちらです。大阪公立大学および沖縄美ら海水族館を運営する沖縄美ら島財団総合研究センターからも共同で発表していただいています。
Phylogenetic and functional properties of hagfish neurohypophysial hormone receptors distinct from their jawed vertebrate counterparts
Yoko Yamaguchi, Wataru Takagi, Hiroyuki Kaiya, Norifumi Konno, Masa-Aki Yoshida, Shigehiro Kuraku, Susumu Hyodo
私自身、大学4回生の卒業研究からの縁があり、「スライム」を放出することがテレビ番組でも紹介され、かなり知名度の上がったヌタウナギにおもに注目した研究です。島根大学の山口陽子さんが中心となって、オキシトシンやバソプレシンという脳の下垂体から分泌されるホルモンの受容体をつくる遺伝子の多様化のプロセスを調べました。ゲノム進化上のイベントに伴う遺伝子重複や遺伝子の欠失、そして、受容体としての分子機能の系統特異的な改変などが背後に潜んでいることを、脊椎動物の主要な生物系統を網羅した比較解析によって示しました。従来より考えられていたよりも複雑な進化プロセスを経て、脊椎動物の内分泌システムが多様化したことが浮かび上がってきました。
この論文でも、ヌタウナギの写真が雑誌の表紙を飾ることとなりました。
ちなみに、受容体ではなくホルモン(オキシトシン・バソプレシン)のほうの多様化パターン、とくに、軟骨魚類の遺伝子レパートリの変遷については、サメ類のゲノム解析の際に調べ、そののちに総説で取り上げて議論しています。
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